上場検討段階では、税務基準に基づき計上しているor計上していないことが多い貸倒引当金。
上場会社に求められる金融商品会計基準に基づく、貸倒引当金の計上に関し、一般的な流れをまとめました。
①対象となる債権のピックアップ
貸倒引当金の検討のファーストステップとして対象となる資産を特定することが必要です。一般的な会社で流動資産に計上されている債権のうち、貸倒引当金の計上の検討対象となる資産は以下です。
【対象資産】
・売掛金
・受取手形
・未収入金
・立替金
・短期貸付金
貸倒引当金の検討対象として混同しがちな資産は以下です。
【対象外資産】
・前払費用
・前渡金
対象資産は、金銭の受取を目的とする資産であるため、金銭債権に該当します。一方で、前払費用、前渡金は、金銭の受取を目的とする資産ではなく、サービスを受け取ることを目的とした前払であると考えられるため、金銭債権に該当しないです。貸倒引当金は、金銭債権に対し、計上を必要とするか否かの検討を行います。
そのため、流動資産について、金銭の受取を目的とする資産か否かを区分の上、貸倒引当金の計上対象を特定します。
②債権の滞留状況の把握
①で対象となる債権を特定できたら、次は債権の滞留状況を確認します。取引発生時において、取引を認識することと合わせて、支払期限通り、適切に入金されているかのチェックは重要です。この債権の滞留状況を適切に把握できないと貸倒引当金をいくら計上する必要があるか算定できないため、取引先別などに回収状況が分かる資料作成や債権管理のシステムを利用することなどにより把握することが必要です。
債権管理としては、BtoBなどで1件あたりの取引金額が大きく、相手先が少ない場合にはエクセル資料などで管理していることが多いですが、取引先件数が多くなった場合には、株式会社ROBOTPAYMENTの請求管理ロボなどを利用して債権管理を行うことが一般的です。
③貸倒引当金の計上ルールの作成
②までで滞留債権の把握ができたら、次に貸倒引当金のルールを決定します。貸倒引当金のルールは一般的に経理規程の引当金の計上基準で大まかなルールを定めて、経理規程とは別に経理マニュアルなどで貸倒実績率の算定方法や貸倒懸念債権等のルールを定めていることが多いです。
経理規程や経理マニュアルの例は以下です。
(経理規程)
引当金の計上基準
〇.貸倒引当金
一般債権については、過去における貸倒実績率により貸倒引当金を計上する。
貸倒懸念債権、破産更生債権等については、個別に回収可能性を勘案し、回収不能見込額を計上する。
(経理マニュアル)
①金銭債権の区分
金銭債権に関し、以下支払期日からの月数により区分を行う。
一般債権は支払期日から3か月以内の債権。
貸倒懸念債権は支払期日から1年以内の債権。
破産更生債権等は支払期日から1年超の債権。
②貸倒引当金の計上
金銭債権の区分内容に応じて、以下の通り貸倒引当金を計上する。
1.一般債権
一般債権に貸倒実績率を乗じて貸倒引当金を算定。
貸倒実績率は、3決算期前、2決算期前、前期決算における債権を分母として、2期決算前、前期決算、当期決算における貸倒損失を分子として算定するものとする。
2.貸倒懸念債権
貸倒懸念債権に50%を乗じて貸倒引当金を算定。
3.破産更生債権等
破産更生債権等に100%を乗じて貸倒引当金を算定。
ポイントは、経理規程や経理マニュアルにおいて明確に、貸倒懸念債権や破産更生債権等になるルールを設けた上で、貸倒懸念債権や破産更生債権等に区分された時の貸倒引当金計上ルールを設けることです。
滞留債権の状況に応じて、都度都度貸倒懸念債権等における貸倒引当金額を見積もることも合理的ですが、実務上工数が要すること、監査法人との協議に時間が要すること、貸倒引当金の計上額に主観が含まれる要素が多くなることなどから、決算早期化及び非属人化などのためにもルールを明確に設けることがポイントになります。
ルールを明確に設けるためにも、②滞留債権の状況の把握で、どのような場合にどれくらい債権が貸倒になるかの実態を把握することが重要です。
④ルールに基づく販売プロセスの整備、運用
③のルール作成まで完了したら、次は販売プロセスの整備、運用です。販売プロセスの中で、取引開始段階の調査や、売上計上は適切に出来ていても、取引の最後にあたる入金消込及び債権の滞留状況の把握と債権の滞留先への確認を出来ていないところが多いです。
そのため、債権の入金消込及び債権の滞留状況の把握を誰がどのように行うのか、債権の滞留先への確認を誰がどのように行い、その結果をどのように管理するかを明確にすることが重要です。
⑤決算時における貸倒引当金の計上
④のルールに基づく、債権の滞留状況を把握できたら、決算において貸倒引当金を計上します。その際には、③で定めたルールに基づき、貸倒引当金を画一的に行うことが決算の早期化の観点からは良いと考えられます。
会計上、貸倒引当金を計上した場合にも、実務では引き続き、回収のための督促を継続的に行うなどすることは当然の企業努力であり、乖離することは問題はございません。