特許権を申請する場合の会計処理(★★★★★)

質問

当社は「自社開発」を行っており、将来的に特許権を取得する予定です。特許権を取得するまでに、
①特許取得のための研究開発に要した費用(取得原価)
②特許の出願料や登録料など(付随費用)
が必要になるのですが、会計処理はどうすべきでしょうか?

結論

①特許取得のための研究開発に要した費用(取得原価)
研究開発費として一括費用計上

②出願料や登録料など(付随費用)
<上場企業、スタートアップ、会社法監査が必要会社など「会計」基準に基づいた財務会計が必要な会社>
原則:一括費用計上(販管費の租税公課など)
例外:特許権設定登録料のみ特許権として無形固定資産計上

<中小企業など「税務」基準に基づいた税務申告のための税務会計が必要な会社>
原則:無形固定資産計上
例外:一括費用計上(販管費の租税公課など)

基準

・会計基準:
なし

・税務基準:
7-3-3の2 次に掲げるような費用の額は、たとえ固定資産の取得に関連して支出するものであっても、これを固定資産の取得価額に算入しないことができる。
・・・
(1)ニ 登録免許税その他登記又は登録のために要する費用
・・・

整理

特許権を取得するパターンは外部から購入する場合と自社開発の2パターンがあります。
外部から購入する場合は、会計基準も税務基準も同様に取得価額で無形固定資産計上することが適切です。

一方で、自社開発の特許権は会計基準と税務基準で異なると考えられます。
特許権に関しては、会計基準と税務基準ともに明確な基準がないです。
自社開発の特許の出願から登録までの流れは以下になります。

内容内容
1.選考技術調査自分が出願しようとしている発明と似たような発明(技術)がすでに特許として出願・登録されていないか確認すること
2.特許出願(出願書類の作成・提出)特許庁に出願書類を提出すること
3.方式審査特許出願について、所定の手数料が納付されているかといった形式的な要件を満たしているのかを審査すること
4.出願審査請求特許庁が実体審査(出願された発明が、特許要件を満たしているかの審査)をするための請求
5.実体審査出願された発明が、先ほど説明した「新規性」や「進歩性」などの特許要件を満たしているのか、を判断すること
6.特許査定実体審査の結果、拒絶の理由がない(特許要件を満たす)と判断されたこと
7.特許権の設定の登録=特許権が発生特許査定が出た後は、特許料を納付すること

特許権を取得するためには上記の通り、複数の手続を踏む必要があり、特許権を出願して取得するまでに平均して14.3か月(2019年度)かかります。
また、特許権は出願して特許権をできる確率は2022年度は約76.4%であり、出願すれば必ず、取得できるものではないです。
そのため、出願して特許権を取得することは決算期をまたぎ、100%特許権を登録することができるものではないため、両者の基準の目的をもとに、実務では処理を行っています。

両者の基準の目的は以下になります。

<会計基準>
株主や投資家及び銀行など債権者等の利害関係者が企業の財産や利益をみて意思決定するために用います。
企業としては利益を大きく見せたいという心理が働きますが、利害関係者としては不当に計算された企業の財産や利益を開示されてしまうと正しい意思決定ができません。
従って、資産か費用かあいまいなものは利益か大きくならないように基本費用とし、利益額を減少させます

<税務基準>
税金を計算するために用います。
企業としては税金を多く払わないように、利益を小さく見せたいという心理が働きますが、税務署としては不当に計算された税金計算では課税の公平が保てず、正しい税金徴収ができません。
従って、資産か費用かあいまいなものは利益か小さくならないように基本資産とし、課税額を増加させます

特許取得のための研究開発に要した費用(取得原価)は、開発段階では価値があるか否か明らかに不透明であるため、財務会計、税務会計ともに研究開発費として一括費用計上することとなります。

一方で、特許技術が企業の中で確立し、特許申請を行う場合、

財務会計上は、特許権が取得できるか否か不透明であるものは利益か大きくならないように基本費用と考えるため、原則として一括費用計上(販管費の租税公課など)し、例外として特許権を取得できることが確実となった特許権設定登録料のみ特許権として無形固定資産計上とすることが考えられます。

税務会計上は、特許権が取得できるか否か不透明であるものは利益か小さくならないように基本資産と考えるため、原則として無形固定資産計上し、例外として一括費用計上(販管費の租税公課など)とすることが考えられます。

実務では、財務会計と税務会計で処理が異なると煩雑になるため、特許権取得の中でかかる費用の金額的重要性を考慮の上、監査法人などと協議などしたうえで、特許権申請のための費用など税務会計に合わせてすべて無形固定資産として資産計上(特許権取得までは「特許権仮勘定」などの名称で計上)することが考えられます。その場合において仮に特許権が取得できなかった場合には、金額的重要性がないと考えたうえで無形固定資産で資産計上したと考えられるため、取り崩しを行う際には販売費および一般管理費または営業外費用として一括で費用計上することが考えられます。

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