賞与引当金の検討ステップ

IPOを目指す段階の会社において、賞与の会計処理は、現金主義で計上されることが多いです。一方で、IPOを目指す会社においては、賞与に関し、発生主義による費用計上が求められます。賞与に関する発生主義の検討ステップをまとめました。

① 賞与の支給形態を整理する
② 賞与に対する会計処理を決定する

① 賞与の支給形態を整理する

賞与に関する会計処理は賞与の支給形態に応じて異なります。そのため、初めに、賞与の支給形態を整理します。
賞与の支給形態は、主に以下があるかと思います。

(1)支給期間の在籍状況に基づき、各社員の月額給与×〇か月分一律支給
(例)4月~9月の在籍状況に基づき、12月に各社員の月額給与×3か月分一律支給
A社員(4月~9月在籍):月額給与×3か月分
B社員(8月~9月在籍):月額給与×1か月分(3か月×1/3(在籍しているのは6か月中2か月のみのため))

(2)各社員の成績に応じて、賞与を支給
(例)4月~9月の各人売上成績に応じて、12月に各人売上成績×5%支給
A社員(売上高:1億円):500万円(1億円×5%)
B社員(売上高:3千万円):150万円(3千万円×5%)

上記の賞与の支給形態をふまえ、賞与の支給形態を整理するポイントは以下2点です。

(a)賞与の支給金額確定はいつか?(決算処理時までに確定or決算処理時までに未確定)
(b)賞与の支給は何を目安に決定するのか?(支給期間or支給期間以外)

(a)、(b)の整理内容に応じて、会計処理及び勘定科目が異なることになるため、賞与の支給形態を整理することが初めに整理することが重要です。

② 賞与に対する会計処理を決定する

賞与の支給形態が判明したら、次は会計処理を決定します。
会計処理を決定するにあたっては、まず初めに①(a)賞与の支給金額確定はいつか?を確認します。
会計処理上、支給金額の確定の有無により以下整理がされます。

支給金額が確定している場合=賞与引当金
支給金額が確定していない場合=未払費用or未払金

「未払従業員賞与の財務諸表における表示科目について」基準において、支給金額確定の目安は、「財務諸表の作成時」とされています。
一方で、IPOを目指す会社においては、上場後における決算短信の45日以内開示などを見据える必要があります。
そのため、開示資料作成などの時間を考慮し、実務上概ね決算日後20日以内に支給金額が確定しているか否かが目安になります。

また、賞与を支給する際には、合わせて社会保険料(健康保険など)を支給することが必要です。そのため、賞与金額に合わせた社会保険料を計上することが必要です。
社会保険料は、支給金額が確定している際には、実務上合わせて社会保険料も決定することが多いですが、支給金額が確定していない場合には、対応する社会保険料も見積もることが必要です。
実務上、社会保険料の見積は、賞与に対する社会保険料の料率を決定し、見積算定した賞与に乗じることで算定することが多いです。
社会保険料の料率は主に以下いずれかを用いることが多いです。

(c)会社における全体の社会保険料の負担率を算定する方法
(d)15%

上記までの整理ができたら、会計処理及び勘定科目の整理を行います。

(例)
賞与の支給金額が未確定の場合
(賞与引当金繰入額)見積賞与金額 (賞与引当金)〃
(法定福利費)見積賞与金額×15% (未払金)〃

賞与の支給金額が支給対象期間に応じて確定の場合
(賞与)確定賞与金額 (未払費用)〃※1
(法定福利費)確定社会保険料 (未払費用)〃※2

賞与の支給金額が支給対象期間以外に応じて確定の場合
(賞与)確定賞与金額 (未払金)〃※1
(法定福利費)確定社会保険料 (未払金)〃※2

※1:支給金額が確定の場合にも、(b)賞与の支給は何を目安に決定により勘定科目が異なります。支給対象期間に応じて決定する場合には、未払費用を利用し、支給対象期間以外の場合には未払金を利用します。

※2:社会保険料に関する勘定科目は、実務上給与手当などに対応する社会保険料の未払計上する際の勘定科目と同じものを利用することが多いですので、実態に合わせて勘定科目を変更ください。

賞与の会計処理について、実態をもとに会計処理をどうするかは、判断の余地が含まれる部分が多いため、上記①、②の整理が出来たら、監査法人と協議の上、決算前に合意することが重要になります。

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