資産除去債務導入ステップの実務

IPOを目指す企業において、資産除去債務で最も論点となりやすいのがオフィスビルなどの賃借に伴う原状回復義務

資産除去債務の検討を実務順でまとめました。

【資産除去債務の計上が必要かの確認】
①賃貸借契約書を確認し、原状回復義務があるか確認
②原状回復義務がある物件に間仕切など固定資産計上があるか確認

【原状回復金額の見積り】
③賃貸借契約書などに指定業者の定めがあるか確認
④工事業者に対し、原状回復金額の見積を依頼
⑤④を実施しない場合、過去退去時の原状回復実績などをもとに見積

【資産除去債務の会計処理】
⑥資産除去債務の原則法適用、簡便法適用かを判断の上、会計処理

目次

資産除去債務の計上が必要かの確認

オフィスビルなどの賃借を行っているすべての場合で、資産除去債務の計上を必要というわけではないです。そのため、資産除去債務が必要か確認することから始めます。

①賃貸借契約書を確認し、原状回復義務があるか確認

オフィスビルなどを賃借するにあたり、賃貸借契約書を契約します。賃貸借契約書には、賃貸借期間や賃料、支払条件など様々なことが記載ありますが、その中の一つとして退去時などの原状回復義務を定めていることあります。
そのため、初めに賃貸借契約書を確認し、原状回復義務があるかの確認を行います。原状回復義務がある場合の記載例は以下です。

「(原状回復義務)
借主は本契約が契約満了及び解除その他事由により終了する際は、借主が実施した貸室内の造作、間仕切、諸設備、機器、建具及び什器機器等を借主の費用をもって撤去し、貸室を原状に回復して貸主に明け渡さなければならない。」

一般的な賃貸借契約においては、原状回復義務が定められていることがほとんどです。例外として、オフィスビル自体の建替工事が行われることを前提に入居した際などには、建替が行われるため、原状回復義務がないことがあります。そのため、まずは賃貸借契約書を確認し、原状回復義務があるかを確認します。

②原状回復義務がある物件に間仕切など固定資産計上があるか確認

①で原状回復義務があると判断された場合、次のステップとして賃貸借物件に関し、固定資産があるかを確認します。資産除去債務の計上が必要となるのは、固定資産がある場合になります。そのため、固定資産台帳を確認し、賃貸借物件に間仕切などの固定資産があるかを確認します。オフィス環境を快適にするために、間仕切などの内装工事を行っている場合が多いですが、営業所で内装工事をしていない、シェアオフィスを利用しており、固定資産計上がない場合もあり、その場合には、資産除去債務の計上は不要と考えられます。なお、①で原状回復義務がありとなっている場合で、固定資産がない場合にも引当金の計上が必要な場合があると考えられ、この点は担当の監査法人と協議することが必要と考えられます。

原状回復金額の見積り

資産除去債務の計上が必要と判断された場合、次に原状回復金額の見積を行います。

③賃貸借契約書などに指定業者の定めがあるか確認

原状回復金額が退去時にいくらかかりそうかは見積になります。そのため、確定金額が分からないため、できるだけ実際金額と近くなるような見積を行うことが必要です。賃貸借物件の原状回復義務においては、該当物件に対し工事業者に原状回復金額がいくらになりそうかを確認することが一番実際金額と近似すると考えられます。そのため工事業者への依頼を検討しますが、賃貸借契約書に工事業者の指定がある場合があります。その場合には、退去時利用するのが指定工事業者となるため、賃貸借契約書を確認し、指定工事業者がいるかの確認を行います。

④工事業者に対し、原状回復金額の見積を依頼

③で指定工事業者があるか否かを確認できた後、次に工事業者に見積を依頼します。見積依頼後すぐに見積書を入手することが出来るわけではないため、時間に余裕をもって依頼することが必要です。

⑤④を実施しない場合、過去退去時の原状回復実績などをもとに見積

過去にオフィスビルの退去実績があり、退去実績が今回の見積対象物件の原状回復金額と近くなると考えられる場合、工事業者への依頼を行わずに、過去実績をもとに見積を行うことが考えられます。過去実績をもとにした見積方法の例が以下です。

過去物件の(原状回復金額÷延床面積)×見積対象物件の延床面積

原状回復金額の見積方法は決まりがないため、実態に応じて決定を行うことが必要です。監査契約を締結後は、監査法人も受け入れることができる水準が必要になります。

資産除去債務の会計処理

⑤までで原状回復金額の見積ができたら、最後に資産除去債務の会計処理を行います。

⑥資産除去債務の原則法適用、簡便法適用かを判断の上、会計処理

資産除去債務には、原則法と簡便法があります。実務では、IPOを目指す企業では特に、内装工事等をあまり多くやっていないこともあり、簡便法での実施が認められ、簡便法で会計処理を行うことが多いです。
簡便法が認められる場合は、賃貸借物件に敷金などの保証金があり、保証金を原状回復見積額が下回った場合です。その場合は、原状回復見積金額÷原状回復を行うまでと見込まれる期間(※1)で算出した金額を償却することとなります。

(敷金償却)※1 (敷金)〃

通常の固定資産との混同を避けるために、敷金償却などの勘定科目を利用することが一般的です。

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