監査法人におけるショート・レビューにおいて、ほとんどすべての会社で課題となる収益認識基準の検討。課題となった収益認識基準を始めるときに、基準や参考となる書籍を読んでも、長文で分かりづらい。そのため、収益認識基準の検討のきっかけのステップをまとめました。
①売上取引をパターン別にまとめる
企業において、一つの取引パターンのみで事業を行っていることは少ないと考えられます。例えば不動産会社では、賃貸借物件の仲介、所有物件の販売、所有物件の賃貸などがあると考えられ、それぞれの取引ごとに売上の認識が異なることが考えられます。そのため、会社の取引をパターン別に分けて検討することが必要です。会計的な影響から金額的重要性が高いものから検討できるように、取引パターンと合わせて金額集計を行うと有用です。
②パターン別にまとめた売上取引について上場企業の競合他社をリストアップ
収益認識基準は2021年4月から適用となっています。収益認識基準が適用される前の期間においては他社例などもないことから、参考となるものがなく、会社及び監査法人ともに検討に時間を要していました。現在はすでに収益認識基準が導入されてから数年経過しています。上場会社では有価証券報告書などで収益認識基準の適用をどのように行っているか記載されています。そのため、他社の整理を参考にするべく、上場企業の競合他社をリストアップし、調べることが収益認識の検討に効果的で効率的な作業になります。
上場企業は10社ほどリストアップすると傾向が分かるためより有用な検討になります。
③上場企業の競合他社の収益認識基準を調べてまとめる
②でまとめた上場企業について調べます。調べ方は以下の通りです。
1.「○○株式会社(上場企業名) 有価証券報告書」で検索
2.検索したものから、有価証券報告書を選択
3.有価証券報告書の中段の注記事項以降にある「重要な収益及び費用の計上基準」または「収益認識関係」に記載ある収益の認識時点をそのままコピーしてまとめエクセルに貼り付け
競合他社のすべての取引が競合取引でない場合には、競合となる取引に関する収益認識基準のみをまとめます。無料で調べることができるため、とても有用です。
④論点事項について整理する
③の情報を元に売上の論点事項について整理します。売上の論点事項のうち、特に以下が注目されることが多いです。
1.履行義務(収益をいつ時点で認識するべきかの判断要件)
2.本人or代理人(売上を総額基準で認識or純額基準でいずれで認識するべきかの判断要件)
それぞれ売上の計上に大きく影響を与える項目です。そのため、1と2については、③で検索した会社においてどうなっているかを整理することが有用です。なお、1については履行義務について明確に記載あることがほとんどですが、2については、本人(総額基準)と判断される場合には明確に記載がないことも多くあります。
⑤他社論点事項を踏まえた整理を行う
④までで他社論点事項の整理を行えたら次に当社へのあてはめを行います。当社への当てはめを行う際には、他社と取引が共通するところ、異なるところがどこかを照らし合わせ、調べた企業のうち、最も近い企業の収益認識基準を参考としながら収益認識基準の整理を行う。
以上が簡単な収益認識基準の整理となります。収益認識基準は、今回の方法とは異なる5ステップと呼ばれる検討過程を踏まえて検討を行うことが必要となりますが、最初から基準で求める5ステップで検討を行うことは量的にも大変であり、また論点事項がどこか分からなくなってしまうことが考えられるため、まずは競合他社を参考に論点事項について整理した上で、自社に当てはめた場合どうなるかを検討することから始めると良いかと思います。