固定資産の会計処理が楽になるヒント(移転編)

スタートアップにおいて、社員の拡大などに合わせて行う引越し。引越し時に主に論点となるのは以下2つです。

①固定資産の会計処理
②資産除去債務の会計処理

毎年は発生しないけど、一度決めておくとラクになる会計処理をまとめました。

飲食店など店舗ビジネスを行っている会社でも応用利用できますので、良ければご参考ください。

① 固定資産の会計処理
② 資産除去債務の会計処理

① 固定資産の会計処理

引越し(移転)における固定資産の会計処理は一般的に3パターンあります。

(1)減価償却費(早期償却)
(2)減損損失
(3)固定資産除却損

(1)減価償却費(早期償却)

固定資産は、税務上の法定耐用年数で減価償却を行うことが一般的です。そのため、引越しを行うことを決定した場合、固定資産の利用期間は法定耐用年数の残存期間より短くなると考えられます。

そのため、会計基準では、経済的残存耐用年数で減価償却を行うことが求められるため、残りの残存期間にわたって減価償却を行う考えが、(1)減価償却費(早期償却)です。

(2)減損損失

一方で、引越しは資産の使用に変化を起こす事象だといえます。そのため、固定資産の減損の兆候の例示にある

②資産または資産グループの使用されている範囲または方法について、当該資産または資産グループの回収可能価額を著しく低下させるような変化が生じたか、あるいは生ずる見込みであること

に該当するといえます。そのため、引越しまでの残存期間で残存帳簿価額以上の収益を生み出せないとされる場合は、残存帳簿価額を全額減損損失計上する考えが、(2)減損損失です。

(3)固定資産除却損

(1)と(2)は異なり、固定資産を除却したタイミングで会計処理を行います。減価償却の償却方法を変化させる必要がなく、また、減損損失の検討が必要ではないため、一番会計処理が簡単です。

上場企業以外では、(3)固定資産除却損の採用が一般的ですが、
上場企業では(1)減価償却費(早期償却)または(2)減損損失のいずれかの会計処理を求められることが一般的です。

理由として、基準において実態に合わせて適時に会計処理を行うことが求められています。この実態に合わせて適時に会計処理を行うことに固定資産除却損は該当しないと考えられるためです。

(1)減価償却費(早期償却)または(2)減損損失のいずれかの会計処理の中で、

減損損失で全額減損損失を行う

ことが上場を目指す企業にとっては最も簡便的な会計処理だと考えられます。

理由は、会計上では、会計基準に沿って、(1)減価償却費(早期償却)または(2)減損損失を行いますが、税務基準では(1)減価償却費(早期償却)または(2)減損損失が認められず、法定耐用年数での償却を継続することが求められます。

会計と税務で2重の記録を行うことが必要になります。(1)減価償却費(早期償却)では、資産ごとに変更後の残存償却年数での減価償却と法定耐用年数による減価償却が必要なため、実務上非常に手間です。

一方で、減損損失で全額減損損失を会計上行うと、会計上はそれ以上の処理は必要ではないことから、税務上は今まで通り法定耐用年数による減価償却を行い、申告書上で調整すれば良いため、申告書調整含めて(1)に比べて簡便的です。

そのため、(2)の減損損失を採用の上、全額減損損失を計上することが会計の基準を満たしたうえで、実務負担面も考慮すると一番簡便的な処理だと考えられます。
一方で、全額減損損失を計上すると、開示上は減損損失計上年の業績が悪く見えるとの考え方もあります。
減損損失の注記情報などに減損内容を明記することで業績が悪く見えることを回避するなど対応策は色々とあります。


一度採用した方法は継続することが求められます。
そのため、引越し(移転)が今後生じた際には、同様の処理を行うことが原則求められます。
そのため、実務負担と開示での見せ方を考えた上で、どちらを採用するか整理することが必要です。

② 資産除去債務の会計処理

賃貸等物件に原状回復義務がある場合、実務上、
取得段階で資産除去債務の計上を行い、その後資産除去債務の見積の見直しを行わないことが一般的です。

取得段階での資産除去債務の計上において、工事業者に見積を依頼し、当見積に基づき、資産除去債務を計上するのですが、工事業者の見積も実際に内装状況など確認せず、図面情報などをもとにした簡便的な見積も多いです。
その結果、実際に、引越しを行う際の原状回復金額は、資産除去債務計上時の金額とズレが生じることが多いです。

そのため、引越しを行う際に工事業者に原状回復の再見積を行い、資産除去債務計上金額と再見積金額にズレが生じる場合には、資産除去債務にズレの金額を反映させます。

資産除去債務については、固定資産の会計処理と異なり、楽になる別の手段はないですが、再見積の結果、金額のズレが小さい場合には、資産除去債務の計上額を変更しないことも許容される場合はあります。

引越しをするとなった場合に、監査法人側から再見積依頼があることも多いですので、再見積を行った上で、ズレの金額が小さかったため、修正しないとする整理が必要です。

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